減価償却費の前倒し計上としての性格のある特別償却は、その資産を取得した事業年度の納税額を減らすのに劇的な効果があります。
その反面、それほど多くの利益がない法人が、中小企業経営強化税制のなどで適用を受けることができる即時償却(取得価額全額を取得事業年度で償却費として計上すること)をした場合には、大赤字になってしまいます。
特別償却費を計上したために赤字になったということを金融機関が理解してくれる場合はそれでもいいですが、金融機関が難色を示す場合は、どうしたらよいのでしょうか?
そのような場合は、剰余金の処分により特別償却準備金を積み立てるという方法があります。
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特別償却準備金の積み立てとは?
剰余金の処分による特別償却準備金の積み立てとは、わかりやすくいうと「特別償却費を損益計算書で計上せず、法人税の申告書で計上する」というイメージです。
そのため、決算書上では利益が出ているけども、法人税の申告書では赤字(欠損)ということもありえます。
経理処理と税務処理
取得価額1,000万円の機械装置(耐用年数5年:定率法0.400)を期首に取得し、即時償却した場合を例に説明します。
対象資産を取得した事業年度
対象資産を取得した事業年度は、減価償却費は普通償却費のみ計上し、特別償却費部分は繰越利益剰余金を減らして特別償却準備金を積み立てます。
会計処理
減価償却費 4,000千円 / 機械装置 4,000千円 →普通償却費部分
繰越利益剰余金 6,000千円 / 特別償却準備金 6,000千円 →特別償却費部分
税務処理
【別表四】
特別償却準備金認定損 6,000千円(減算・留保)
【別表五】
区分 | ①期首 | ②減 | ③増 | ④期末 |
---|---|---|---|---|
特別償却準備金 | 6,000 | 6,000 | ||
特別償却準備金認定損 | △6,000 | △6,000 |
翌事業年度以降
取得事業年度の翌事業年度以後は、取得事業年度に積み立てた特別償却準備金を取り崩して益金(税務上の収入)の額に計上します。
取り崩し額は耐用年数によって次のように定められています。
特別償却準備金の当初積立額 × その事業年度の月数/次の耐用年数に応じた月数
- 耐用年数が10年以上の場合…84ヶ月
- 耐用年数が5年以上10年未満…60ヶ月
- 耐用年数が5年未満…耐用年数×12
会計処理
特別償却準備金 1,200千円 / 繰越利益剰余金 1,200千円
税務処理
【別表四】
特別償却準備金加算 1,200千円(加算・留保)
【別表五】
区分 | ①期首 | ②減 | ③増 | ④期末 |
---|---|---|---|---|
特別償却準備金 | 6,000 | 1,200 | 4,800 | |
特別償却準備金認定損 | △6,000 | △1,200 | △4,800 |
まとめ
中小企業経営強化税制などで税制上の優遇を受ける場合、払うべき税金を少なくしてくれる税額控除のほうが、トータルの納税額は少なくなることが多いですが、特別償却は当期に納付すべき税額を減らしてくれるという点で、資金繰り面でのメリットがあります。
ただ、特別償却費を計上したがために赤字になって資金調達が困難になってしまっては元も子もありませんので、特別償却準備金の積み立てを検討してみてはいかがでしょうか?